外国語での遺言書作成の相談が増加中
現在、日本で結婚するカップルのうち、3%程度は国際結婚となっています。
夫婦の組み合わせで最も多いのは、夫が日本人で妻が中国人のケースです。その他、夫が日本人で妻がフィリピン人、夫がアメリカ人で妻が日本人のケースなども少なくありません。
その後、年月が経ち、高齢化してくると、一定の財産もありますので、相続に備え、日本の在留する外国人が遺言を残したいケースが出てきます。
日本とは違い、アメリカをはじめとする欧米諸国では遺言をしておくのが当たり前になっていますので、一定以上の資産をお持ちの外国人資産家のほとんどは何らかの遺言を残しています。
例えば、このようなケースです。
70歳のアメリカ人の夫が妻に日本で生前に遺言を残したいとします。
しかしそのアメリカ人夫は妻とはほとんど英語で会話しており、日本語があまりできず、英語でしか読み書きができないため、日本語で遺言を作成できません。
そこで、英語で遺言を残したいと考えています。
このように、英語で記した遺言書は有効でしょうか。また、外国語で遺言をする場合、どのようなことに気を付けないといけないのでしょうか。
これについては遺言の方式ごとに若干違いがありますので、以下、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言に分けて解説します。
外国語で作成した遺言の有効性
①自筆証書遺言の場合
まずは、最もオーソドックスな形態である、自筆証書遺言の場合です。
自筆証書遺言については、近時、法改正がありました。
改正前は、自筆証書遺言は、全文自書しなければなりませんでした。
しかし、改正後の「2019年1月13日以降に作成された遺言」は、全文を自書しなくてもよいということになりました。
具体的には以下のような改正になります。
自筆証書遺言で、特定の財産を特定の人に与える場合は、財産を特定できる項目を記載する必要があります。
例えば、預貯金であれば金融機関名や口座番号、不動産であれば登記事項(所在地、地目、地番、地積など)を記載しなければなりません。
改正前は、これらも含めて「全文をすべて」自書しなければなりませんでした。
しかし、改正法では、パソコンで作成した財産目録や預貯金通帳のコピー、登記事項証明書を添付することができるようになりましたので、「全文をすべて」自書する必要はありません。
こうすると、「遺言が偽造されるのでは?」と思うかもしれません。
しかし、財産目録には署名押印をしなければならないことになっています。これにより、偽造も防止できることになっています。
そして、自筆証書遺言については、外国語で書いても問題はありません。法律上は、上記の自筆や財産目録への署名は必須ですが、 使用する言語に、制限はないからです。
あとは、上記のルールに従って自筆で記入し、日付・氏名・押印を忘れずに記載すれば遺言としては問題はありません。
ただ、外国語で作成した遺言は実際に執行できるかの懸念があり、あまりお勧めはしません。
②秘密証書遺言の場合
次に、秘密証書遺言の場合です。
秘密証書遺言の方式としては、以下のようになります。
1.遺言者が遺言を作成し、その遺言書に署名・押印
↓
2.遺言者が、その遺言を封筒に入れ、遺言で用いた印で封印
↓
3.遺言者が、公証人と証人2人以上の前に封筒を提出し、自己の遺言であることと氏名住所を申述
↓
4.公証人が、その遺言に提出した日付及び、遺言の申述(自己の遺言であること及び氏名住所)を封筒に記載し、公証人、証人、遺言作成者本人が封筒に署名押印します。
上記の場合、遺言を自分で書くのか、他人に書いてもらった遺言に署名押印をするかはどちらでも構いません。
そして、秘密証書遺言も、自筆証書遺言と同様、外国語で作成しても問題ありません。
ただ、この遺言書は公証役場に提出されますので、公証人とのやり取りで日本語が話せない場合は、公証人が話している内容を理解しているかどうかの判断が難しくなるため、通訳が必要となります。
③公正証書遺言の場合
外国人の方で、日本語を話せない又は書けないという方の多くは、公正証書遺言の方式で遺言を作成するのがよいかと思います。
公正証書遺言は必ず日本語で作成されますので、後日翻訳(場合により翻訳公証)をするのがよいでしょう。
公正証書遺言作成の当日は、本人と証人2名、通訳が一緒に公証役場に赴きます。 本人が療養中で公証役場に行けない場合は、自宅や病院、介護施設等に公証人と書記、証人が出張し、通訳が同席します。
当日は通訳は同席しますが、本人の家族等、関係者も同行できますが、作成時は原則としてその場に同席できません。
そして、本人と証人2名の前で公証人が遺言の内容を読み上げ、通訳者が随時これを通訳します。 内容に問題がなければ、本人と証人2名 が証書に署名・押印します。
そして、完成した 原本は公証役場が保管し、正本と謄本が本人に手渡されます。
最後に、あらかじめ用意した手数料を現金で公証役場(必要に応じて依頼した法律専門家や証人等)に支払います。
外国語で遺言を作成する場合のまとめ
1.「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の要件を満たしていれば使用する言語は問われないので、外国語で「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」の作成は可能。
2.ただし、自筆証書遺言に法的効果を持たせるには、全文自筆、もしくは財産目録をパソコンで作成し、プリントアウトしたものに自筆で署名が必要。また日付と氏名の記入、押印、変更がある場合は変更履歴の記載をしなければならない。
3.公証役場で公証人が作成する「公正証書遺言」は、外国語では作成できない。当日必ず通訳が立ち会って通訳し、それを基に公証人が日本語で遺言を作成する。
当事務所のサービス
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